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金融政策の先行きをみる上で必要な3つの軸

日本の金融政策は、政策自由度、特に金利を操作する政策ダイナミズムの失われた状態が20年以上に渡り続いています。一方、米国ではFedは2021年11月にテーパリング開始を決定し金融政策を転換しました。Fedの金融政策は市場参加者のポートフォリオに影響を与えるため、Fedの次の一手は様々な角度から考えられています

私は、市場の原点には中央銀行が鎮座しそれを取り囲むいろんな市場が外周円に存在している、と考えています。原点から近いほどノイズが少なく中央銀行の影響力が大きい一方、原点から遠ざかるほど中央銀行の影響は薄れ、外周円の独自要因の影響が強まる、というわけです。金融市場の太陽系です。市場構造をこのように設定すると金融市場全体を俯瞰しやすくなります。

インターバンク市場はFedの政策転換の影響を最初に受ける市場で、次に米国債市場へ波及します。そしてアメリカ株へ広がり、為替レート、米国以外の株式市場や債券市場、ゴールドなどコモディティへ、次々と影響力の連鎖が広がってゆきます。

金融政策の先行きを考える3つの軸

金融政策予想の難しいところは二つあります。一つ目は、中央銀行が行動を起こす前に、市場参加者の思惑で市場が勝手に動いてしまうことです。中央銀行が市場参加者に意図的に働きける場合もありますね。いずれにせよ、市場は思い込んでしまうのです。思い込むから予想なので当たり前ではあります。市場が思い込んでしまう箇所をリストにして見ました。

 市場が思い込んでしまうものリスト

  • 利上げが始まるタイミング・・・「When」
  • 利上げ期間・・・「How long」
  • 最終的に着地する政策金利水準・・・「How far」

利上げが始まるタイミング・・・When

中央銀行は自分たちの政策変更が市場の暴落のトリガーになることを嫌います。政策を一夜で手の平を返すようなことは普通はしません。政策変更を決めたとしても、実行に移すまでは十分な時間をとり、タイミングに配慮します。中央銀行による「政策変更モラトリアム」ですね。ところが市場ではいつ政策が変更されるのか、発動時期はいつなのか、といったタイミングへの思惑を強めてしまいます。この思惑によって市場が揺さぶられてしまうのです。なんとも皮肉なものです。

利上げ期間・・・How Long

あらゆる金融商品の現在価値は、将来のキャッシュフローを割引率でディスカウント・バックして評価されます。利上げが短期間で終わるならば、将来のキャッシュフローの予測精度はそれほど低下しないでしょうし、割り引く金利も大きくはなりにくいでしょう。逆に利上げ期間が長引くなれば、将来の経済状況が変わることも踏まえた上での金利形成が行われてゆきます。こうした不確実性の高まりも市場を揺さぶる原因です。

利上げ期間を予測するのは人間です。あくまで私の感覚でしかないのですが、妥当な予測として人間が折り込める期間は、せいぜい2年、3年ぐらいでしょうか。今後5年間は利上げが続くでしょう、という予測は見たことがありません。

最終ゴール・・・How far

文字通り政策金利の最終ゴール水準です。ピンポイントでX%と言い当てるのは難しいですが、テイラールール、中立金利、Long-term rateなど、モデレートな経済成長や許容できるインフレ率などに関する様々な考え方を援用すれば、乗り切れるかも、です。

ブレるコンセンサス

金融政策予測のもう一つの難しいところは、せっかく織り込んだ市場の思い込みが案外もろいことです。思い込みはコンセンサスと呼ばれます。ところがこのコンセンサス、一つの経済指標や有力者の発言などによってブレます。政策転換が実行に移されるまでの間の状況変化によって、コンセンサスは間違いなくブレます。まだ起こっていない将来を予想するのですから、予測値がブレるのは仕方ありません。コンセンサスはブレるものだ、と覚えておいた方が良いでしょう。そしてコンセンサスのブレが市場を揺さぶる要因になります。

まとめ

実際にポジションを貼るときには、自分の見方とコンセンサスにズレがあるのか、ないのかを確認した方が良いでしょう。独自の相場観は大切ですが、独りよがりの相場観は危険ですここは米政策金利の先物価格から市場が織り込んでいる政策金利を逆算しています。私が金融政策のコンセンサスを見るために使用するサイトです。

3軸で見ると、市場では、最初の利上げは2022年6月から8月(来年中盤)に行われたあとに年内もう一回、そして2023年も利上げが続く、という内容になっています。

このコンセンサスは現在の経済環境(中古車価格の上昇、半導体不足、サプライチェーン問題、原油価格高騰)の影響を受けて形成されたものですから、今後のニュースによって変動します。例えば

  バイデン政権が原油価格が下落するまで備蓄石油の放出を決定した、とか、

  インフレ率が一過性ではなくなり、狂乱物価が始まった

などの情報がどんどん追加されます。そのたびにコンセンサスは揺さぶられ続けます。そして市場も動きます。先ほどあげた3軸(When, How long , How far)で整理して見ることで、市場への理解が深まると思います。

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