Me-Yangが勝手に選ぶ投信セレクション。第2回目は岡三アセットマネジメントさんが運用する「中国人民元ソブリンオープン(元高米ドル安戦略) 愛称 夢元ドル戦略」です。まずはファンド概要、スキーム、リターン源泉、足元の運用状況を確認しておきましょう。
ファンド概要
当ファンドは中国ソブリン債券に投資する外債ファンドです。リスクは中国債券の金利リスク、為替にあります。
しかし当ファンドはただの外債ファンドではありません。普通の外債ファンドが値上がりする条件は、(1)外債が金利低下して債券価格が値上がりすること、(2)為替が円安になること、です。しかしこのファンドは条件(2)為替が円安になったからといって値上がりする訳ではありません。逆に円高になっても値下がりすることもありません。外債ファンドですが、値上がりも値下がりも円安とは無関係なファンドなのです。
それ、外債ファンド?と尋ねたくなるでしょうが、為替リスクは人民元と米ドルで取っている外債ファンドです。人民元が米ドルに対して値上がりすれば基準価額は上昇します。この部分が当ファンドの最大の特徴です。
元高米ドル安戦略の中身
為替リスクを人民元と米ドルに転換させている背景を商品スキームで確認してみましょう。
当ファンドのお金の流れは4つの工程に分かれています。このうちstep.1からstep.3までは普通の外債ファンドと同じです。当ファンドの最大の特徴である「ドル売り円買い戦略」をstep.4に盛り込んでいます。まずはstep.1からstep.3をみてみましょう。

Step.1 円から中国債券市場にエントリーするためには、一旦米ドルを経由します(クロスカレンシー取引)。このため実需の円売り、米ドル買いを一番最初に行います。
Step.2 次に実需で米ドル売り、人民元買いを実行します。経由した米ドルの為替リスクはありません。
Step.3 人民元を売り、人民元建てソブリン債に投資します。為替リスクは人民元のままです。
ここまでは通常の外債ファンドと同じスキームです。
上図を縦方向で見るとリスクの所在が確認できます。為替リスクは米ドルは相殺され「円売り人民元買い」から発生します。債券リスクは人民元建て債券です。
次にこのファンドの最大の特徴である元高米ドル安戦略をみてみましょう。単純に円買い・ドル売りの為替先物予約取引を行うことになります。
Step.1からStep.4までを総合的に俯瞰すると次のようになります。

リスクの所在を縦方向で確認してみましょう。Step.4の為替ヘッジオペレーションを行なった結果円のリスクは相殺されました。代わって「ドル売り」のリスクが追加されました。そしてこのドル売りに対応している為替リスクが「人民元買い」になります。債券は中国債券市場からの金利リスクを取っています。
なぜ「ドル売り人民元買い」なのか?
中国については賛否両論があります。投資家の中には、そもそも中国を投資対象ユニバースには加えない考えもあるかもしれません。ただ政治、経済、軍事など、世界の重要マターを中国を抜きにして考えることは現実的ではないでしょう。全ての投資家がなにがしかの中国エクスポージャーを直接的・間接的に保有することになると思います。
ではその中国の規模感をざっくりとみておきましょう。
圧倒的なのは貿易収支です。コロナ禍でも5300億ドルの貿易黒字を稼ぎ出しました。日本の名目GDP500兆円の10%以上です。一方アメリカは貿易収支は赤字です。米国と中国の貿易構造、これこそがドル安元高の源泉です。
中国の貿易黒字構造は需給面で元高圧力になります。中国でも労働者賃金が上がり、グローバル企業の中には生産拠点を中国から他のアジア地域へ移す動きも一部にあるようですが、日本のGDPの10%近くの貿易黒字を未だに計上する国です。中国の貿易黒字構造は構造的と見て良いでしょう。一方の米国は世界一の消費大国です。マクロ的には借金しても消費する国で、構造的消費国です。
構造的貿易黒字国・中国はやぶ蛇になるので、貿易黒字問題を国際会議で自分から取り上げることはしません。一方、構造的貿易赤字国・米国に取って貿易赤字は政治マター化しやすいが故に国民感情に訴えることができる「便利なネタ」です。民主党でも共和党でも基本ラインは変わりません。
もしも米国が本気で貿易赤字を解消したいのであれば、米国の消費を減らし貯蓄を増やす以外に解決策はありません。しかし消費抑制を自由の国アメリカで国民に強いるのは絶対的に難しい。となれば貿易黒字国を攻撃するしかない。その有力な手立ての一つが人民元切り上げ圧力を中国に加え続けることです。米国では財務省が毎年2回為替報告書を発表し、為替操作国の判定を行なっています。為替操作をしている国と認定されれば、何らかの圧力が米国から加わることになります。
中国の最大目標は共産党の一党独裁体制の強化です。米国からの人民元の切り上げ要求を呑む代わりに、体制強化策が認められるならばそれでも良い、と考える時もあるでしょう。
結局のところ米中貿易通商摩擦が構造的な国際問題なので、米国からの人民元の切り上げ要求も構造的なテーマではないかと思います。構造的な米中貿易摩擦問題と人民元切り上げへの継続的な政治圧力には投資価値があるように思います。
加えて中国債券利回りは3%くらいですので、キャリー収益としての魅力もありますね。
パフォーマンス
足元ではドル高円安基調なので元高米ドル安戦略を用いない普通の人民元ファンドの方が良好なパフォーマンスを計上しています。人民元が米中の貿易構造や通商問題などを背景に継続的に米ドル対して切り上げられてゆくというシナリオにベットするのであれば、為替戦略を用いたファンドは面白いと思います。
なお純資産が47百万円しかありませんが、兄弟ファンドが155億円あるので繰り上げ償還の可能性は低いです。売買コストも問題ないでしょう。販売は楽天証券やSBI証券などのネット証券の他、対面販売でも取り扱っているようです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。構造的な収益機会がある当ファンドは投資価値のある魅力的なファンドに思えます。最後に当ファンドに投資するときの考え方をまとめておきます。
- 中国の巨額貿易黒字は構造的。人民元高の基本的なドライバー。
- 米国の貿易赤字も構造的。
- 米中貿易摩擦は人民元高への圧力を加える。
- 中国金利は3%。