南アフリカで発見された変異種オミクロンが瞬く間に世界の金融市場を揺さぶり、久しぶりのリスクオフの中で11月を終えました。オミクロンは既にヨーロッパやアジアへ拡大しつつあるようです。これまで開発されたワクチンの効き目に対する懐疑的な見方が製薬会社から発せられたこともあり、新ワクチン開発までにかかる時間やその間の経済活動の停滞など、思いつく限りの悪材料を一気に織り込んでいます。
では早速月間ランキングを見てみましょう。
2021年11月月間ランキング
「上げ3年下げ3日」とは相場の格言の一つです。幸いにも格言ほど酷い状況には至りませんでしたが、先進国の株式は総じて痛手を追いました。そんな中で驚異的なのはNASDAQ。月間でプラス圏内で終えることができました。また異色は中国株でしょう。悪材料てんこ盛りの中国経済ですが、深セン株も月間ではプラスで終えることができました。
株以外のアセットクラスでは債券ETFのインフレ連動債と総合指数がプラスでした。社債のスプレッドが拡大している模様で、適格社債や非適格社債は値下がりです。なお債券ETFには配当がオンされていないので、経過利子込みの債券に投資できればリターンは上乗せできたでしょう。
冴えないのが「金」。リスクオフ時に真っ先に買われるはずの金が今のところほとんど活躍していません。残念なアセットクラスです。米国利上げ観測の後退、ドル下落など、通常であれば金価格を支援する強気材料も今のところはワークしていません。
2021年年間ランキング(途中経過)
では次に今年のランキングも見ておきましょう(ローカル通貨建リターン、AveRtは日次リターンの年率換算、RISKはAveRtの標準偏差、ICはAveRt/RISKです)。

11月までの「貯金」があるので多くの先進国株式は2桁リターンを維持しています。またインドやベトナム(表にはありませんが)など新興国の一角にも堅調な国があります。
表を読み解くにはもっと整理する必要がありますが、「堅調な欧米株、今ひとつのアジア株」と言えるでしょう。
今ひとつのアジア株、背景は何か?デカップリング<ラグ<一体化
サブプライム問題の深刻化で米国経済は低迷するが、中国は米国と「デカップリング」しているため堅調に成長し続け、世界経済のエンジン役になるだろう、というデカップリング論が2000年台に流行りました。元ゴールドマンサックスのジムオニールがBRICsという言葉を作ったのもこの時期です。しかしその後の世界経済の牽引役は傷の癒えた米国で、中国ではありませんでした。米国が立ち直る中でデカップリング論という言葉自体が表舞台から完全に消えてしまいました。
当時の議論を蒸し返したところで何か新しいものが生まれるわけでもないのですが、果たして「米国との関連性が低い中国は世界経済の先導役を務めることができた」のでしょうか?
私はデカップリング論は怪しい議論と思っています。関連性が低いとは言っても、遮断されている訳ではないためです。直接的・間接的な結び付きを通じて、何かしらの影響が他国へ波及してゆくことでしょう。影響が遮断されるデカップリングに見えるだけで、実はラグが生じているにすぎないのでしょう。
デカップリング、一歩譲ってラグ、しかしそのラグすら経済のボーダレス化により国と国との経済的連携が深まれば、間隔が短くなり一体化に近づくことでしょう。
妄想にすぎないのかもしれませんが、これが当てはまるとするならば、アジア株のいまいち感の原因は中国経済にあるのではないかと思ってしまう次第です。大きなテーマなので仮説の域を出ませんが。
Evergrandeを始めとした中国の不良債権問題が世界を震撼させる可能性は低いでしょう。なぜならサブプライム問題と異なり、Evergrandeの格付けや債券をトリガーとする別の債券が市場に出回っていなかったためです。しかし中国経済のデフレ圧力になる可能性は見ておいた方がよく、アジア近隣諸国にラグをもって波及するシナリオは用意しておくべきでしょう。
さて来年は?
オミクロンでマーケットの材料が混乱してしまいましたが、来年を見通す上でキーとなる材料を整理して終わろうと思います。
- 米国の利上げ、いつから始まるのか、いつまで続くのか、どこまで引き上げるのか?
- 利上げの二次的影響を受けるどの資産、どの通貨、どの国か?
- オミクロンで成長率見通しは引き下げられるのか?(一月のIMF経済見通し)
- OPECは原油価格の増産協定を履行するのか?
- 中国Evergrange問題は世界のデフレ圧力になるのか?被害を受ける地域はどこか?
これ以外にも金価格の行方の他、米国債務上限問題や日本の参議院選挙などのイベントがあります。いずれにせよ細かく見てゆく必要がありそうです。