先日の株式市場ランキングに続き、今年の為替市場の対円騰落率をランキングしてみました。ランキング対象通貨は主要通貨とエマージング通貨、合計20通貨になります。ユニバースとしてはまずまずかと思います。なお、スポットレートなので金利寄与分はリターンに含まれません。エマージング通貨を始めとした高金利通貨は不利になってしまいますが、ご容赦ください。データソースはinvestment.comです。
ドル円の円高月は2回だけ
ランキング前にまず月次リターンをみておきましょう。11月の月次リターン(11/25まで)でソートしてあります。
個別通貨の濃淡はありますが今年は円安の年と言えそうです。実際、ドル円がドル安円高になった月は4月と7月の2回しかありませんでした。今となってはこの2ヶ月分のドル安円高ドライバーを思い出すことすら困難を極めますが、あやふやな記憶を紐解くと、米国の行き過ぎた利上げ観測の修正、テーパリングや利上げを急がないといった要人発言により米金利が低下したことがドル安円高のドライバーでした。
今年のリターントップは人民元
では年間リターンの途中経過をみてみましょう。2020年12月末を基準としたリターン、平均月次リターン(年率)、平均月次リターンの標準偏差、そして情報係数でまとめています。
人民元がトップ、衝撃的な結果でした・・・アリババ創業者行方不明、香港動乱、台湾を巡る国際問題、南シナ海での軍事懸念、恒大問題、直近ではテニスプレイヤーの失踪等、国際社会からの批判を浴び、深刻な経済問題を抱える中国・人民元が上昇率トップです。次いでカナダ、米ドルが続きました。両国とも既に金融政策の舵が引き締め方向へ切られいますから、それを評価した動きとも言えそうです。
一方ダントツ最下位はトルコリラ。高インフレ経済下でも金利を下げ続けた結果、通貨価値は教科書通り下落しました。
為替に万能理論なし
為替レート決定理論には購買力平価、実質金利、貿易収支などの需給バランス、期待収益率に基づくポートフォリオ理論など、有力な理論がいくつもありますが、経済・貿易構造の変化や金融資産の影響力の高まりなどにより、時代の流れと共に説明力は低下し、どんな為替相場でも説明できる「万能理論」はないように思います。また株式市場と同様、為替市場も相場です。参加者の期待や思惑が含まれる相場を理論で予測することには限界があるでしょう。
中国は不動産問題が長引く恐れがあり、目処がつくまでの間は低金利が続きそうです。低金利は人民元の弱気材料です。しかし弱気材料をはるかに凌ぐ巨額の貿易黒字が人民元高の有力な理由でしょう。米中貿易摩擦問題がより一層エスカレートすれば、為替監視対象リスト国の中国が「為替操作国」に認定され、人民元高への政治的圧力に発展する可能性もあるでしょう。
一方の米ドル。アメリカでは名目金利が上昇していますが、実質金利は大幅マイナスです。10年債利回りは名目債1.6%、インフレ連動債が-1%です。インフレ率を考えると目減りする通貨が上昇するというのも変な理屈です。
理論には限界があります(理論と呼べないのかもしれません・・・)。かろうじて説明できそうな理論でも、現実との間には、時には埋めがたいギャップが生じることもあります。理論がいつも空回りしている訳ではなく、ましてやウソではありません。つまらない結論ですが、為替相場を説明する万能理論はないと割り切り、相場を理解するには色んな切り口や理論から柔軟に考えることが妥当でしょう。
ドル高の弊害は何処に
今年のアメリカは金融政策の優先順位が経済ブーストからインフレ抑制へ変化しました。「変化」は市場参加者に影響を及ぼします。米国内外の金融市場にも波及します。結果にはプラスもあればマイナスもありますが、投資家としてもマイナスの影響を被る資産には投資したくないですね。ドル高の弊害がどの資産に現れてくるのか。来年のテーマになりそうです。