Analysis

2021年年間パフォーマンス

コロナ感染が完全に収束しないまま2021年が終わり2022年に入りました。いろんなイベントがあった2021年を世界の主要株式指数、為替、コモディティから振り返り、2022年を展望してみましょう。

株式指数はベトナムがベストパフォーマー

ベトナムがアメリカを抑え、堂々の一位!

世界の主要株式指数の現地通貨建て年間リターン(Cum_Rt)トップはベトナムでした。ベトナムは人口ボーナス期にあり今後も成長が期待できる魅力的な国です。経済構造は「超貿易立国」で輸出金額と輸入金額が名目GDPとほぼ等しく、最大のお得意先はアメリカです。アメリカ経済によくも悪くも引っ張られる国です。2021年はアメリカ経済の急回復を受け、国内経済が活気付いたことが強気の株式指数に現れ、本家の米国を抑え堂々の第一位を記録したのではないかと思います。またベトナムは管理フロート制度を採用しており、通貨ベトナムドンの価値を米ドルに事実上ペッグさせています。昨年は対米ドルでは前年比1.1%上昇とほとんど動きませんでした。2021年のベトナムは通貨価値が安定し、しかも資産価格が上昇するという海外投資家にとっては素晴らしい投資先でした。なお、第7位のBIST100(トルコ)は現地通貨ベースでは25.8%上昇していますが、トルコリラは暴落していますのでベトナムとは大違いです。

ランキングに目を戻すと上位には米国とヨーロッパなど先進国で占められていることがわかります。日本は残念ながらTOPIXが22位、日経平均が25位と奮いませんでした。「同じ先進国なのに日本の株価は米国やヨーロッパに劣後した」現象を「日本株の出遅れ」と表現する人が多いのですが、本当にそうでしょうか・・・私は出遅れているのではなく、成長率が鈍化している中国経済の影響を受けた、中国経済への依存度が高まった結果ではないかと推測しています。

というのもランキング下位グループはアジア諸国が目立っているためです。

中国の経済規模はアメリカに匹敵するほど巨大になりました。地理的に近いアジア諸国(含む日本)と中国との結びつきは深まっているでしょう。巨大化したその中国経済の成長率が鈍化しているので、結びつきの強いアジア諸国の経済や株価が欧米諸国に見劣りするのは仕方のないことなのかなぁと感じています。

アジアの中で投資するなら、中国と結びつきが低い国、自国で十分成長できる国が良いと思います。その意味でベトナムは有力候補と考える次第です。

為替は人民元

人民元がトップです!

昨年は円が全面安の一年でした(トルコは除きます)。円は対ドルでは11.4%も下落しています。裏返せばドルが非常に堅調だったとも言えます。そのドルを抑えたのが人民元とカナダドルでした。

カナダドルが堅調だった理由はわかりやすいでしょう。コロナからいち早く立ち直り金融政策の正常化に取り掛かった国だからです。株価が上昇する中で政策金利が上がり通貨も上昇しました。

それに比べ中国人民元が上昇した理由はわかりづらいです。

中国経済は「成長の安定性」がテーマになっています(工作会議)。潜在成長率が年々低下していることは「成長の安定性」が揺らいでいると判断した背景なのかもしれません。中国恒大グループ発行の米ドル債券の利払いや償還が期日通り行われていないことからすると同社の苦境は継続していると見ておくべきで、中国全体の不動産市況は慎重に構えておいたほうが良いでしょう。経済以外の面でも台湾との緊張や人権問題など中国への国際非難は高まったままです。金融緩和政策の最中にあり、株価指数も冴えませんでした。これが中国の2021年でした。

悪材料ばかりの中国ですが人民元だけは別物でした。

中国は圧倒的な貿易黒字国(年間5000億ドルの黒字!)です。稼いだ外貨を中国国内に持ち込む時の人民元の買い圧力が人民元高の基本的なストーリーだと思います。また貿易黒字は米中通商問題の引き金になっており、米国サイドからは政治的に人民元高を誘いやすい構造になっていることにも気をつけておきたいところです。今年は米国は中間選挙の年です。就任1年目で支持率低下が顕著なバイデン政権が対中貿易赤字を過度にヤリ玉にあげる可能性も残されており、人民元高が今後も続く可能性は十分あると思います。

以上、今年一年は中国人民元と米ドルの強さが目立つ一年でした。まとめると、中国は国内ファンダメンタルズに不安はあるものの、人民元には強烈な人民元高要因があります。一方のドル。ドル高の一番の理由は金利水準や将来の利上げ観測のようです。ただし景気が好調だと身の丈以上の消費をするのがアメリカです。金利上昇の裏側で貿易赤字が拡大している事実を忘れてはならないでしょう。もちろん貿易赤字はドル安材料です

コモディティ、移行コストや供給制約からのインフレ圧力に金融政策は対処不可能

コモディティも簡単に見ておきましょう。

昨年はSDGsの普及で企業が反・脱炭素のレッテルを貼られるリスクに神経質になったとの報道をよく耳にした一年でした。原油価格の高騰も石油採掘企業やオイルサンド・オイルシェール企業の活動が活発化しなかったことが一因との見方もあるようです。脱炭素社会を目指すにしても実現には時間がかかります。理想が実現するまで、目標へ到達するまでのコストが原油を含めて様々な商品の価格上昇となって跳ね返ってきた一年だったのかもしれません。

一方で各国の経済対策が奏功し、経済活動が正常化方向へ向かっていることがインフレ圧力になっていることは疑いようがないでしょう。インフレ圧力の原因が需要の高まりによるものであれば金融引き締めで事足りるでしょうが、移行コストや供給制約コストからも波及しているのであれば、金融引き締め政策だけでインフレを収束させることは困難で、むしろ事態を悪化させる可能性すらあるのではないかと思います。足元のインフレ要因は需要サイドにあるのか、供給サイドにあるのか、インフレ圧力は特定できるのか、特定されたインフレ要因はどのような経路で最終物価をどの程度押し上げているのか、また今後押し上げていくのか、こうした見立てが金融政策には非常に重要でしょう。Fedは利上げを目指していますが、見えづらい相手に伝家の宝刀が威力を発揮することは難しく、厳しい舵取りを迫られることになりそうです。

最後は米国債

米国債のイールドカーブは金利上昇とフラットニングの一年でした。トータルリターンではデュレーションの大きい長期債ほど損失が大きくなっています。2022年、利上げによってイールドカーブがツイストフラットするのであれば長期債がトータルリターンでプラスになるかもしれません。

2022年のテーマ

2022年のテーマで今見えている重要なものは、米国の利上げ、中国のソフトランディング可否、そして米中関係と考えています。米国の利上げは市場に織り込まれているので、今織り込まれている以上の利上げを織り込みにゆく局面や、逆に織り込まれていたはずの利上げ観測が失われてしまう局面、またこれらの局面が実現する要素に何が考えられるのか・・・こうした材料が市場を動かすことは間違いありません。柔軟な想像力と細かい観察力が求められるでしょう。

中国のソフトランディング可否は不動産セクターの不良債権処理方法とそれを支えるマクロ経済政策になります。適切なポリシーミックスがとられるならば混乱は少ないでしょう。その意味で今後打ち出される施策と共に習体制の安定が重要になるでしょう。

米中両国とも秋に大きな政治的なイベントを迎えます。火種は残っていますが、極端な政治的な刺激を避けることこそが市場の求めていることでしょう。

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