レバレッジ投信シリーズ第3回目はレバレッジファンドをいくつか取り上げてリスクとリターンを計測し、レバレッジの効果を数字で確認してみようと思います。まずは前回の振り返りです。
振り返り
- レバレッジ投信が提供するリターンは日次相場変動率×レバレッジ比率です。ある時点からのリターンのX倍ではありません。
- レバレッジ比率をファンド性格に合わせるための「リバランス売買」が毎日必ず行われます。
- リバランス売買は自動的・機械的・無機質売買で、市場変動を大きくする要因です。
- リバランス売買を収益化する野心的な試みがあります。
レバレッジの目的はリターン追求
レバレッジとは資金を借り入れて投資することでした。投資先として株にこだわる必要は全く問題ありません。債券でもリートでもコモディティでも何でも良いでしょう。日興アセットさんが展開している「グローバル3倍3分法ファンド」は、株の他に債券やリートを組み入れ3倍のレバレッジをかける投信です。レバレッジという言葉には人間の射幸心に訴える悪魔的な響きがありますが、お金を借りて投資すればそれは全てレバレッジなのです。借りたお金の使い道は人それぞれですが、高リスク商品に投資しても、低リスク商品に投資しても「レバレッジ」です。
ではなぜレバレッジをするのでしょうか?レバレッジの目的とは何でしょうか?言うまでもなく高いリターンを追求するためです。「調達金利以上のリターンが期待できる」が最低ライン。あとは目標リターンの設定次第で、レバレッジ比率が変わってきます。
前提条件
米国に投資するファンドを中心にレバレッジファンドを選択し、パフォーマンスを俯瞰してみます。わかりやすく理解するためには絶対評価の他に相対評価もあった方が良いので、eMaxis Slim米国株式(S&P500)をベンチマークに設定しました。ファンド選択基準は信託報酬が低いもの、残高が大きいものなどとしています。データ期間はそれぞれのファンド設定日から直近までとしています。
倍率 | ファンド名 |
2倍 | NZAM・レバレッジ米国株式2倍ブル |
3倍 | NYダウ・トリプル・レバレッジ グローバル3倍3分法ファンド(隔月分配型) |
5倍 | 米国分散投資戦略ファンド(5倍コース)(USブレイン5) |
投信の検索キーの使い勝手、レバレッジ投信自体が比較的新しい商品である、名称がブルベアと被っている商品もある、などにより、レバレッジ投信の全体像を把握することは厄介です。みんかぶやMorningstarのサイト、楽天証券やSBI証券のサイトで調べてみましたが、漏れがあるかもしれない点、ご容赦ください。
2倍ゾーンは激戦区
2倍ゾーンは各投信会社が商品を競い合っているボリュームゾーンです。投資対象先は米国株が多く、SP500、ダウ、ナスダックなど代表的な指数の2倍リターンを獲得しようとするファンドが多いですね。代表的指数以外では、FANGやEVなどのテーマに合致する個別株ポートフォリオをレバレッジする投信もあります。なお日本株についてはレバレッジの売れ筋は投資信託から上場投資信託(ETF)へ移っているようです。
ここでは代表的な指数であるSP500の2倍リターンの獲得を目指すNZAM・レバレッジ米国株式2倍ブルを取り上げ、レバレッジの効果をみてみます。

計算期間:2020.03.12-2021.11.15(ソースは投資信託協会)
ファンド | ベンチマーク | |
設定日 | 2020.3.12 | 2018.7.3 |
トータルリターン | 238.14% | 90.21% |
平均日次リターン(年率) | 89.0% | 44.5% |
平均日次リスク(年率) | 48.5% | 27.3% |
情報係数 | 1.8370 | 1.6319 |
信託報酬率(税込) | 0.88% | 0.0968% |
ファンドのトータルリターンがBMの2倍以上になっていますが、本来これを比較することは間違いです。誤解して欲しくないため強調しますが、レバレッジファンドは毎日リバランスを行い、レバ倍率分だけ1日のリターンが大きくなることを狙ったファンドです。ある時点を起点にした累計リターンはX倍にはなりません。
リターンの知識を理解した上で、改めてこのファンドを見ると、リスク量上昇、効率性上昇、リターン上昇でした。
3倍ゾーン(NYダウ・トリプル・レバレッジ)
3倍ゾーンでは株ファンドとバランスファンドの事例をそれぞれみてみましょう。まずはNYダウの3倍です。

計算期間:2020.03.30-2021.11.15(ソースは投資信託協会)
ファンド | ベンチマーク | eMAXIS NYダウ | |
設定日 | 2020.3.30 | 2018.7.3 | 2013.08.07 |
トータルリターン | 274.98% | 99.21% | 79.56% |
平均日次リターン(年率) | 102.9% | 46.9% | 40.4% |
平均日次リスク(年率) | 57.7% | 20.0% | 21.0% |
情報係数 | 1.7825 | 2.3525 | 1.9214 |
信託報酬率(税込) | 1.1% | 0.0968% | 0.66% |
eMaxis NYダウの計算結果も合わせて掲載しました。ファンドはリスクをとった結果魅力的なリターンがでました。効率は低下しました。
3倍ゾーン(グローバル3倍3分法ファンド(隔月分配型))
バランス型のレバレッジファンドではこのファンドが代表選手ですね。

計算期間:2018.10.4-2021.11.15(ソースは投資信託協会)
ファンド | ベンチマーク | |
設定日 | 2018.10.4 | 2018.7.3 |
トータルリターン | 56.04% | 66.64% |
平均日次リターン(年率) | 16.6% | 21.0% |
平均日次リスク(年率) | 16.1% | 26.1% |
情報係数 | 1.0344 | 0.8047 |
信託報酬率(税込) | 0.396% | 0.0968% |
株式ファンドはハイリスク・ハイリターンを狙い、バランスファンドはミドルリスク・ミドルリターンを狙うファンドです。レバレッジ型のバランスファンドのコンセプトは、株式ファンドよりも高いトータルリターンを効果的に獲得しようというもの。
このファンドのトータルリターンはレバレッジをかけたものの残念ながらベンチマークには及びませんでした。しかし情報係数はベンチマークを上回っています。レベレッジをかけた結果、分散効果が効果的に働いたと結論づけられそうです。
5倍ゾーン
私が調べた範囲では日本では5.5倍が最大のレバレッジ投信です。5倍と聞くと危ない匂いがしてきますが、5倍は自己資本比率に換算すれば20%です。自己資本比率20%の企業、財務基盤はそこそこ安定しているのではと思います。
前置きはともかく、取り上げたファンドは米国分散投資戦略ファンド(5倍コース)(USブレイン5)。まずは結果をみてみましょう。

計算期間:2019.11.15-2021.11.15(ソースは投資信託協会)
ファンド | ベンチマーク | |
設定日 | 2019.11.15 | 2018.7.3 |
トータルリターン | 25.31% | 62.97% |
平均日次リターン(年率) | 14.2% | 30.2% |
平均日次リスク(年率) | 21.0% | 28.5% |
情報係数 | 0.6792 | 1.0580 |
信託報酬率(税込) | 1.1825% | 0.0968% |
このファンドのコンセプトをよく調べていないので迂闊なことは言えませんが、結果からするとレバレッジの効果がよくわかりませんでした。レバレッジの目的は高いトータルリターンや投資効率の改善ですが、残念ながらこのファンドでは目的が確認されませんでした。バランスファンドは設計段階で何度となくバックテストを行います。おそらくですが、このバックテストとバックテスト結果の解釈に課題があったのではないかと推測します。特に債券の取り扱いです。右肩上がりの債券には気をつけなければなりません!
まとめ
お疲れ様でした。いくつかのファンドを調べてみてレバレッジ型ファンドの姿がだんだん見えてきたように思います。では今回の内容をまとめておきましょう。
- レバレッジの目的はリターンの追求。
- 資金を借り入れる行為がレバレッジ。借り入れたお金を低リスク資産に投資しようが、高リスク資産に投資しようが、レバレッジには関係ない。高レバレッジ高リスクも可能だし、高レバレッジ低リスクも可能。
- レバレッジファンドは毎日リバランスし、組入比率をX倍に合わせる。ベンチマークリターンのX倍のリターンが得られるのは一日。
- ある時点を起点にしたリターンとベンチマークリターンのX倍は一致しない。
- バランスファンドのバックテストには要注意!