各種報道機関によると、クレディスイスが2021年3月に破綻したグリーンシルを巡りソフトバンクを提訴する準備に入ったとしています。報道ではよくわからない部分が多いものの、まずは登場人物などを把握しておきましょう。
登場人物関係図

主要登場人物は4名です。
- グリーンシル
- 売掛金をもとに企業に融資し、それを証券化して販売する「サプライチェーンファイナンス」を展開していた英国の金融会社。2021年3月破綻。破綻のきっかけは東京海上豪州子会社がグリーンシル社への取引信用保険を継続しなかったため。
- カテラ
- 米国建設業界のスタートアップ企業。建築部材の規格化を進め、生産効率化によるコストダウンや工期短縮で急速に事業展開。グリーンシルから融資を受ける。2021年6月破綻。
- ソフトバンク
- カテラとグリーンシルへ出資。各種報道によると出資額はカテラ向けが25億ドル、グリーンシル向けが19億ドルの模様。
- クレディスイス
- グリーンシル債券を組み入れたサプライチェーンファンドを3つ組成し、販売。ファンド規模は総額100億ドル。
- ソフトバンクグループと関連会社を相手取り、英国で提訴する模様。
報道ではクレディスイスは「資金回収」を目指して英国で提訴する方向です。サプライチェーンファンドの投資先であるグリーンシル債券に残っている残存価値の回収でしょう。債権回収のようなイメージだと思います。
グリーンシルが破綻した直接の理由は東京海上保険の子会社がグリーンシルの融資案件に対する保険契約をロールオーバーしなかったことですが、なぜ保険契約をロールしなかったのかについて、東京海上は「保険取引の有効性」という言葉でしか説明していません。保険取引の有効性とは、簡単に言えば、グリーンシル社からカテラへの融資に疑義があるため、保険契約を締結することは出来ない、ということです。ただ具体的な疑義内容を明らかにしていません。
保険契約ロールオーバー拒否がトリガー
報道ベースによると、クレディスイス側が問題視している点は、2020年にソフトバンク側からグリーンシルへ追加出資が行われ、その直後の2020年12月にグリーンシルがカテラへの債務を免除する代わりに株式を受け取った一連の取引の模様です。司直の判断を含めて、裁判の経過を追いかけてゆくしかないでしょう。ただし大まかに推測できる部分や論点もありますので、妄想全開モードで簡単に述べたいと思います。
グリーンシルの株主であり、カテラの株主でもあるソフトバンクは株主という立場上、両者の経営情報に自動的にアクセスできる立場でした。また株主として苦境に陥った会社を支援するのは株主としての務めでもあります。ソフトバンクにとって不幸だったのは、資金の提供者であるグリーンシルとグリーンシルからの資金を受けているカテナの株主を同時に勤めていたことです。特に両者が苦境に陥った際、どちらの出資先企業を優先して救出するのか?という利益相反の問題に直面します。救出プランには他のステークホルダーから不審に思われない納得的なロジックも当然、必要とされます。
ただソフトバンクはどちらを生かし、どちらを捨てる二者択一の決断を迫られていた訳ではないと思います。両者とも救済できると判断していた、といったほうが正しいのかもしれません。なぜならそれまでの間に幾度となく両者へ資本注入を繰り返していたためです。ソフトバンクが二社に対してどのような姿勢でいたのかは、実に興味深いところです。
ただモラトリアム期間中に致命的なトリガーが引かれてしまった。東京海上による保険のロールオーバー拒否です(何らかの事前通告があったのではないかと思うのですが、どうなんでしょうか・・・保険契約を明日から打ち切りにしますといきなり伝えては来ないように思いますが。。。この部分も興味深いところです)。
いずれにせよ、東京海上がグリーンシルからカテラへの融資に対する保険契約のロールオーバーを拒否したことで、事態は急展開したように思います。グリーンシルは別の保険会社を探したのでしょうが、恐らくは見つけるまでの十分な時間がなったのでしょう。そして保険のない融資には投資しない、といった特約がクレディスイスからファンドの条件として事前付与されていたとしたら、ロールオーバー拒否をトリガーとしてファンド資金が一気にグルーンシルから流出し、グリーンシルの資金繰りを直撃したのではないかと思われます。
両者生き残り策の失敗が次なる災難を呼び寄せ・・・
突然のロールオーバー拒否は両者生き残りプランを崩壊させただけに止まりませんでした。なぜなら両者生き残りを目指したソフトバンクサイドの施作が利益相反の疑いが濃厚なダークな取引とクレディスイスから見えているためです。実際、下の記事を読むと、2020年に行われたカテラ社とグリーンシル社との間の株式債務交換(カテラ株5%と4.4億ドル債務を交換)について、株主のソフトバンクグループによる(不当な?)関与をクレディスイス社が問題視している書きぶりです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a3c3aaf8349769212a500eff088993d6201e9a73
真相が知りたい----っ!
サプライチェーンファイナンスという金融の仕組みは特段目新しいものではありません。基本的には手形割引と同じです。資金調達サイドからすれば、通常より高い割引率でも現金化するまでの時間が短縮されれば都合の良いファイナンス方法です。一方運用サイドから見れば、低金利が長期化する中で、少しでも利回りの高い金融商品を求める時代のニーズに応えた金融商品です。古くて新しいですが、時代にマッチした魅力的な資金商品と言えるでしょう。
調達サイド、運用サイドに双方ともメリットのあるサプライチェーンファイナンスが白い目で見られていることは残念なことです。
そうであればこそ、クレディスイスが提訴する理由、東京海上が疑義を持った理由、ソフトバンクサイドの工作活動、グリーンシルから融資を受けたPEファンドとの関係、など全ての疑問を明確に答えてもらいたい、と強く願っております。