
原油高が続いています!
2020年には取引価格がマイナスになった原油。実物には保管コストやらなんやらが色々かかるため、というのがその理由だったようです。購入した人がお金をもらい、売った人がお金を払う、常識では考えにくいですけど。
原油はそこから反転上昇し、直近では1バレル80ドルを上回りました。
背景は?
価格上昇の理由は需要が供給を上回っているためです。短期的には脱コロナにより世界経済が勢いを取り戻しつつあることが一番大きな理由のようです。OPEC諸国が原油価格を維持するために、先進国が要求する産出量を行わない、といった政治的なカードとして原油供給量が絞られている面もあるでしょう。
長い目で見ると脱炭素化の影響もあるようです。脱炭素化が実現された社会では、化石燃料への需要が低下し原油価格は値下がりしそうです。また脱炭素社会実現に抗う企業や炭素排出削減に後ろ向きな企業は「環境破壊者」として社会から非難されるリスクを抱えています。自社に悪い評判が立たないようにするために、油井の稼働を敢えて抑えている採掘企業もあるとか。社会との共生は今や企業にとって重要な経営目標になりました。悪い評判が出そうな事業には積極的に手を打てづらくなったせいで原油供給量が減った、との見方もあるようです。
原油に投資するなら、どのファンドを選択すべきか?
前置きはともかく原油に投資したい方もいらっしゃると思いますので、日本で投資可能な原油ファンドを調べてみました。
私が調べたところ、ETFが3本(野村、シンプレクス、ウィズダムツリー)、投信(UBS)が1本の計4本でした。パフォーマンスを長期と短期でみてみましょう!
長期で見ればUBS、2020年4月から見ればWisdomTreeがベストパフォーマーです。またどの期間で見ても、ファンド間のパフォーマンスの差は歴然ですね!同じ原油に投資するファンドでもこれだけリターン差があるとなると、ファンド選択は慎重に行わなければいけません。
パフォーマンスの差は「対象指数」の違い
東証に上場しているすべてのETFにはそのETFが参照する何かしらの指数があって、それに追随(トラック)するよう設計されています。ETFが参照する指数は「対象指数」と呼ばれます。原油ETFの場合、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上場している先物を対象指数とするケースが多くなります。しかし先物には価格水準も値動きも異なる複数の限月が存在します。どの限月の先物でも同じ現物を参照しますが、限月ごとに水準も動きも異なるのが普通です。
原油ETFの目的は原油市場の動きをトラックすることですが、動きを表現する方法や定義が運用会社や管理会社によって千差万別なことがパフォーマンスに差が出る一番大きな要因です。言い換えれば、同じ原油をトラックするにしても、表現方法に違いを出すことによって独自色を打ち出すことで運用会社は原油ETFの差別化を図っていることになります。
各ファンドの「対象指数」
ファンド | 対象指数 | 内容 |
---|---|---|
UBS原油先物ファンド | UBS ブルームバーグCMCI指数のWTI原油指数 | 原油先物の3ヶ月~3年物に分散投資 |
NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信 | NOMURA原油ロングインデックス | 組み入れる先物の対象とする限月は第2、3、4限月もしくは第3、4、5の3つの限月 |
WTI原油価格連動型上場投信 | ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)におけるWTI原油先物の直近限月の清算値 | 同左 |
WisdomTree WTI 原油上場投資信託 | Bloomberg WTI Crude Oil Multi-Tenor Excess Return Index | ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上場している3つのWTI 原油先物契約の単純平均値 |
各社によって表現が違うことがわかります。一番単純な表現はシンプレクスの「WTI原油価格連動型上場投信」でしょう。これに対して幅広い限月を組み入れて原油市場を表現しているはUBSの「UBS原油先物ファンド」でしょう。
投資する限月の違いはパフォーマンスにどのような影響を与えるのか?
限月毎に価格水準をプロットした先物カーブは右肩上がりか右肩下がりになっています。右肩上がりをコンタンゴ、右肩下がりをバックワーデーションと呼びます。左がコンタンゴ、右がバックワーデーションです。

先物には最終取引日が設定されているため、最終取引日を超えて先物を売買することは原理的に不可能です。従って原油先物ファンドは、最終取引日が近づいた限月を売り、遠くの限月を買い戻す(=ロールオーバー)ことを継続的に行う必要があります。このロールオーバー時の売買、及びその時のカーブ形状がパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。
具体的には、コンタンゴでは安い期近物を売って高い期先物を買うため継続的に損が出ます。パフォーマンスの悪化要因です。逆にバックワーデーションでは継続的に利益が出るため、パフォーマンス向上要因です。
カーブの傾きがどの限月から変化するのかという点も極めて重要です。ロールオーバー時の価格段差が大きいほど、パフォーマンスに大きな影響を与えるため先です。
NYMEXのページを見ると、最近の原油先物カーブはバックワーデーションになっているので、手前に固めた指数ほど高いパフォーマンスが出やすい市場環境といえます。対象指数の内容を見ると、UBSの対象指数が先の限月まで組み入れているのに対し、野村やシンプレクスは手前の限月に固めています。UBSにはやや分が悪い相場環境と言えるでしょう(WisdomTreeは3銘柄の単純平均としか記載されていないのでカーブのどこに投資しているのかわかりませんが、バックワーデーション相場であること、最近の高いパフォーマンスからすると手前の限月と推測されます)。
UBSのファンドが構造的に劣っている、という訳ではありません。今はバックワーデーションの先物カーブがこれからコンタンゴに変化するならば、UBSがアウトパフォームすると考えられるためです。実際、それは2020年前半に起こりました。原油相場の全体の値動きの表現方法が各社によって異なり、どれが自分のスタイルや味方に合うのか、を考えることが重要です。
まとめ
原油先物ファンドを通じて原油相場にベットするということは、方向性とカーブに掛けていることになります。原油先物ファンドの収益の源泉は、相場の方向性と原油先物カーブ形状で、バックワーデーションは有利であることがわかりました。
では、なぜバックワーデーションになっているのか?期近先物価格が期先先物価格よりも高いのは、一時的なのではないか?など、様々な疑問が生まれてきます。
この答えは正直わかりません。その答えを追いかけることが相場に立ち向かう覚悟なのかなあと考える次第です。
なお、原油先物は難しいので、現物で運用したい、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、個人で原油の現物は買えません。某米系の投資銀行が製油所や貯蔵庫を用意して商品のトレードを実践していた話は有名ですが、個人では無理です。